★パリの日記より
1964年10月14日 雨
夕方から降り出した雨がだんだん強くなった。タクシーがつかまらず
約策の時間に遅れてフィリップス社の前に到着すると、すれ違った
車が後方で止った。窓を開けてオジさんが呼ぶ「ムッシュー!」
「ウイ」思わずふり返る。「今迄待っていたんです。フランス・ギャル
です。この車えお乗り下さい」見ると可愛いお嬢さんが運転席の
隣りにチョコンと坐っている。遅れたお詫びを云って後にのり込む。
「すぐ近くです、家へ行きましょう。私は父のロベールです」「えっ!
あの作詞家の・・・?」「そうです。ロベール・ギャルです」。フランス・
ギャルのお父さんが彼だとは知らなかった。これは参った。一見
学校の先生に見えるがなかなか話せそうなお父さんだ。家に入ると
お母さんから弟から犬までが出迎えてくれた。使い古した家具、
ピアノ、普段我々が生活しているのと少しも変らない親しみが感じ
られる。なんとなく雑然としていてしかも清潔で、気取りが全くない。
暖い雰囲気のする家庭である。「どうです一杯、フランスの代表的な
アペリチーフです」とロベール氏がアブサンの水割りをすすめてくれた。
「とてもイイ家庭ですネ」と云うと「そうですか、我々は昔から此処に
住んでいます・・・・・・そしてこの家では自然にシャンソンの雰囲気が
あります。私の友人の作曲家、作詞家、歌手がやって来てお囃り
しますし、ギャルも一緒に仲間入りするのが普通ですし・・・」。
「ギャルさんは何時頃から歌っていたの?」「そうネ、ずい分前から
ネ、学校などで歌っているとお友達が、どうして歌手にならないの?
って云うんです。何時もそう云われていました。そこで1年半位
テープレコーダーを使って歌とギターを練習したんです。それから
それをパパに見せたら、パパがパパのお友達に見せてオーディション
をしてくれました。確か63年の7月11日でした。その后4ヶ月して
最初のレコード "はじめてのバカンス"(Les
Premier Vrais Vacance)
(※注:「恋のお返し」が正しいデビューです。)が出たんです」
「今迄の自分の歌ではどれが好き?」「みんな好きだけど、でも
その中では“はじめてのバカンス”“ジャズ・ア・ゴーゴー”
“クリスチャンセン”かしら・・・・・・」「好きな歌手は?」「フランスでは
シルヴィ・バルタン、フランソワーズ・アルディ、それに若い男の子で
モンティ、彼は私のお友達です。クロード・フランソワ、シャルル・
アズナヴール・・・まだまだ沢山みんな好きだワ」「スポーツは?」
「フット・ボールやバレー・ボールをやるの、男の兄弟が2人いる
でしょ、だから・・・・・・」彼女はギターを取って小声で歌い始めた。
するとコッカスパニョールが彼女のひざに躍り上った。“ヌガー!
ヌガー!”と彼女が犬の頭をなでる。両親はにこにこして見守って
いる。なんだか知合いの家で話をしている様な感じだ。彼女は
少しも飾り気のない真面目な頭のいい大人しいお嬢さんだ。きっと
学校の成績もよかったに違いない。実にいい家庭だ。そろそろ
帰らなければならない時間だ。もっと居たいのを我慢して腰を上げる。
家中の人が扉まで送りに来てくれた。パリの雨はもう上っていた。
ほのぼのとした気持で濡れた石畳を歩いた。
<A 面>
1) 恋はおとなしく
フランス・ギャルのお父さんで有名な作詞家、ロベール・ギャルの詞、
作曲はギイ・マジャンタ。フランスでは63年末「ジャズ・ア・ゴーゴー」
と同じEP盤に収められて発売されています。
2) ジャズ・ア・ゴーゴー
ロベール・ギャル作詞、アラン・ゴラグェール作曲。64年の前半彼女の
大ヒットとなった「はじめてのバカンス」と共にパリのヒット・パレードを
賑わしたヒット曲。ニューヨークのクラブ “ウイスキー・ゴー・ゴー”
や
最近パリにもある同じ名のアメリカン・バーに引かっけた題名で、
ジャズが好きな人達はソレ!ジャズで行こう!と云う意味の最近の
ポピュラーには珍らしい軽快なジャズっぽい歌です。可愛いセクシー
な声でギャルがゴキゲンなスイングを聴かせてくれます。
<B 面>
1) クリスチャンセン
モリス・ヴィダラン作詞、ジャック・ダタン作曲。フランスでは1964年秋
発売されたEP盤の中の一曲。パリのヒット・パレードでは64年の末
上位に進出しました。ノールウエイからやって来た好きな青年
クリスチャンと一緒に過した夏を想った歌で、少女らしい可愛さに溢れた
歌です。最近のものの中で彼女自身が一番好きだと云っています。
2) シャルマーニュ大王
ロベール・ギャル作詞、G・リフェルマン作曲。パリのヒット・パレード
「サ・リュ・レ・コパン」で65年1月に突如として19位にランク、2月には
第1位に昇るという輝しい大ヒットを示しました。シャルル大帝というのは
8世紀の后前、現在のフランスの前身であるフランク王国を築き
ヨーロッパの殆どを征服したシャルマーニュ大帝。彼は学芸も復興し、
フランスでは学校の創始者とされています。“シャルマーニュがサ、
学校なんて考えを起さなきゃ、私達はこんなに苦しまなくてもイイのにネ!”
と云う若い人たちのエスプリをくすぐる愉快な歌です。
[金子貞男] |